
前へ:No18. 心療内科に通院してわかった”社会との隔たり”
ひきこもりの次男が体調を崩したのは、8月2日のことでした。
それから1か月以上が過ぎ、今も週に一度、心療内科に通院しています。
1回目に処方されたのは胃腸の動きを穏やかにする薬、2回目以降は不安や緊張を和らげ、気分を落ち着かせる薬です。
2回目以降の薬は就寝前に服用するものでしたが、どう飲めばいいか分からず、途中でやめてしまいました。
そのとき主治医に強い口調で「治療をやめますか」と言われ、次男は動揺したようです。
患者と医師の相性が合わずに通院をやめてしまう話を耳にしたこともあり、次男もそうなるのではと気になりました。
けれど、次回の予約を入れて帰宅したので少し安心しました。
ここ3年間、9月の初めは「税務署職員採用試験」に挑戦しています。
受験を勧めたのは主人です。理由は――
- ひきこもり状態では民間企業に就職するのは難しい
- 高卒対象の公務員試験なら大卒より合格しやすい
- 今は公務員の人気が落ち、とくに税務署職員は敬遠されがちなので狙い目かもしれない
次男には「将来どうしたいのか」を考える力がまだなく、父の言葉に従って受験するしかありませんでした。
1回目の試験は通信高校を1年遅れて卒業したため、三男と同じ年に受験。
2回目は大雨で交通機関が乱れ、試験日が1週間延期されました。
そして3回目の今回は、「常に便意を感じる」という不安を抱えたままでの受験となりました。
前回は勉強せずに臨みましたが、今回は試験の2、3日前だけ参考書を開きました。
当日は家族が起きる時間に目を覚まし、朝食をすませ、スーツに着替えて受験票や薬を確認。父と一緒に出かけていきました。
試験会場までは新幹線と鈍行列車を使って1時間、試験は13時から17時までの4時間という長丁場です。
体調が悪ければ受験をやめてもよいと伝えましたが、本人の判断で行く決心をしたようです。
母としては、少しでも安心して送り出せるよう見守るしかありませんでした。
試験会場に向かう背中を見送るとき、無理をしないでほしいという気持ちと、挑戦してほしい気持ちが交錯し、胸の奥で葛藤していました。
過去2回はいずれも1次試験を突破しましたが、2次試験の面接では最低評価。
結局1次の合格も取り消されました。面接官が「この仕事には向かない」と判断した結果だと受け止めています。
主人は税金に関わる仕事をしています。
もし合格した場合、1年間は寮生活を送り税金の仕組みを学んだ後、各税務署に配属されます。
現役で毎日税金に向き合っている父なら、次男の支えになれると考えたのかもしれません。
けれど私は不安です。
税務署職員は膨大な知識、数字への正確さ、人とのやり取りを続ける粘り強さが求められる仕事です。
次男にはあまりにもハードルが高く、合格しても再び心身を崩すのではないかと心配ばかりが募ります。
今年もし不合格なら、来年からは受験資格の年齢制限で挑戦できなくなるでしょう。
そのときは別の形で社会とのつながりを探すことになります。
次男の体調を見ながら、無理のない範囲で模索していくことになるでしょう。
夜になり、試験から帰宅した次男と主人の顔を見ました。
次男はうつむきがちで、腹痛に苦しんだ様子がうかがえました。
本人と会話がないので試験中の様子は分かりませんが、体調が不安定な中で会場に足を運んだことを思うと、それだけでも彼には大きな負担だっただろうと思います。
父は「挑戦」を望み、母は「無理をしないでほしい」と願う。
それぞれの思いは違っても、次男の幸せを願う気持ちは同じです。
当分のあいだは結果にとらわれず、ただ静かに休ませてやろうと思います。
今回、試験に向かう彼の背中を見送りながら、挑戦する勇気を尊重しつつも、母として守りたい気持ちが強く心に残りました。
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