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税務職員採用試験の日は、まだ夏の名残を感じるほどの厳しい暑さでした。それから数週間が過ぎ、吹く風が少しずつ柔らかくなり、夕暮れが早まってきました。朝晩には虫の声が響き、季節が移り変わっていくのを感じています。家族にとっても緊張の日々が続いた試験前と比べると、今はようやく穏やかな空気が戻ってきました。
季節の移ろいと次男の体調の変化
ただ、次男の体調は万全とは言えません。試験が終わってからも腹痛や便通の不調が続いており、「試験が終わったのに体がすっきりしない」と本人も漏らしています。心の奥にまだストレスが残っているのかもしれません。
それでも、生活には小さな変化が見られるようになりました。今の次男は昼前に起きて動画を見て、ご飯を食べ、また動画を見るというのが基本のスタイルです。しかし一日のうちに一度は外に出て、散歩や軽いランニングをするようになりました。以前は暗くなってからでないと出かけなかったのに、最近は夕方前に外出する姿も見られます。知り合いに出会う可能性が少ない時間帯を選んでいるのかもしれません。それでも、昼間の景色の中を歩けるようになったのは確かな前進だと思います。
三兄弟でも、それぞれの歩みは全く違いました。兄や弟は中学・高校で運動部に所属し、汗を流した練習着を自分で洗濯して翌日に備えていました。兄はとりあえず洗濯機に放り込み、近くの洗剤を使って回すタイプ。弟は香りにこだわり、気に入った洗剤を使う几帳面さを見せていました。けれども次男だけは、引きこもりになるまで一度も洗濯をしませんでした。代わりに、私がざっと畳んだ洗濯物を丁寧に直していたのです。人と同じことはしなくても、こだわりを持つ部分は確かにありました。
買い物の仕方もまた違っていました。わが家ではお小遣い制ではなく、必要な時に父親からお金をもらう仕組みでした。兄や弟は工夫しながら余ったお金で欲しい物を手に入れていましたが、次男は物欲そのものが少なく、携帯電話も兄や姉のお下がりで十分。新品を勧めても「いらない」と突っぱねました。ただし洋服に関しては少し違い、マネキンのコーディネートをそのまま選ぶこともあれば、父親のお古を好んで着ることもありました。不思議な感性を持っているのだと感じます。
スーパーへの買い物という小さな一歩
そして最近、私の目にうれしい変化が映りました。冷蔵庫やテーブルの上に、食パンやチョコレートクリーム、ピザ用チーズやトマトソースといった、次男の好物が並ぶようになったのです。以前の彼なら空腹でも「外に出るのが嫌だ」と我慢していたはずです。今は自転車に乗って少し離れたスーパーまで足を運んでいるようです。ほんの些細なことですが、外に出て自分で食べたい物を買う。その行動こそ、次男にとっては大きな一歩に違いありません。私はその姿を心からうれしく思います。
一方で、私は今年の国勢調査で調査員を務めることになりました。各家庭を訪ねると、詐欺を警戒して冷たく対応されることもありましたが、反対に「ご苦労様です」と声をかけてくださる方も多くいました。その言葉にどれほど励まされたか計り知れません。人からの温かい一言が、自分の気持ちを大きく支えるのだと実感しました。
その経験から、引きこもりの次男にも「外で温かい言葉に触れる機会」がもっとあればと願わずにはいられません。ちょっとしたやり取りの中で、「ありがとう」「助かるよ」と声をかけてもらえるだけで、きっと気持ちは救われ、前向きになれるはずです。
試験を終えた今も次男の体調は揺れていますが、こうして外出する習慣ができてきたことは確かです。小さな変化を積み重ねながら、季節の移ろいと同じように、次男も少しずつ次の段階へ歩んでいけるのではないかと感じています。私はこれからも、その小さな一歩を見逃さずに寄り添っていきたいと思います。
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